User Manual
Multichannel Monitoring Tutorial Booklet (M2TB) rev. 3.5.2
Masataka Nakahara : SONA Corporation
©2005 YAMAHA Corporation, ©2005 SONA Corporation
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音楽作品では,フロントチャンネルとサラウンドチャンネルに相関性の高い信号を用い,様々な方向のファンタム
音像を使用したサラウンド制作が行われることがある.このような場合は,再生特性にハイ落ちが生じないように,
各スピーカーからリスニングポイントまでの実距離を同一とすることが望ましい.その上で,サラウンド再生音場
を良好とするためには,全てのスピーカーを同じ高さに設置する必要がある.従って,音楽作品の再生環境として
は「A」が理想的となるが.諸事情によりサラウンドスピーカーの高さが異なってしまう場合は,サラウンド再生音
場と再生特性のどちらを優先するかを検討し,「B」の再生環境とするか「C」の再生環境とするかを検討しなけれ
ばならない.
一方,映像音響の制作においては,サラウンドスピーカーをフロントスピーカーより高い位置に設置することが慣
例とされており,その場合にはサラウンド音場の自然さを優先して「C」の環境を構築すると良い.映像音響の制作
では,L/R と C と LS/RS の 3 つのカテゴリーでの音響的役割の棲み分けが出来ている場合が多く,それぞれが高
い相関性を持った信号で構成されることが少ない.従って,フロントチャンネルとサラウンドチャンネルの実距離
が多少異なっていても,双方の間でコムフィルター現象によるハイ落ちなどの再生特性の障害が生じることは少な
い.それよりも,サラウンド音場がしっかりと形成されおり,フライオーバーなどの表現が再生できる「C」の環境
が優先される.但し,フロントチャンネルとサラウンドチャンネルとの実距離の差がハース効果が生じるほど大き
くなってしまう場合は,「B」と「C」の中間的な環境を検討する必要がある.
ヤマハデジタルコンソール,「DM2000」,「DM1000」,「O2R96」では,0.02msec ステップ(0〜
30msec)のディレイ調整及び,0.1dB ステップ(-12dB〜+12dB)のゲイン調整が,各スピーカー出力に
対して可能となっている.これにより,可聴帯域内(〜20kHz)においてコムフィルター現象も払拭可能な精密
なモニター調整が可能となっている.
3-9.THXpm3 認証スタジオ
現在は,様々なマルチチャンネルの再生環境が混在している状態である.最終的にどのような
再生環境を構築するかに関しては,制作対象とするメディアや部屋の状況を総合的に判断し,
適宜最適な形を検討する必要がある.また,各スピーカーのレベルバランスや周波数特性など,
制作するメディアに応じたモニター調整に関しても,マルチチャンネルの再生環境を構築する
上では必要とされる.
THXLtd.が 1999 年に発表した THXpm3 は,そのような中小規模のマルチチャンネル・スタジオを設計するた
めのプログラムとして,現在のところ唯一のトータルソリューションを与える設計プログラムである.
THXpm3 認証スタジオでは,以下のアウトラインに沿って,マルチチャンネル・スタジオがつくられる.
1.遮音性能,NC 値,残響時間等の基準値をクリアする室内音響特性の実現.
2.スタジオの用途,部屋環境に応じた最適なスピーカー配置の検討.
3.THX の専門エンジニアによるモニター調整と認証測定.
4.室内音響特性及びモニター特性が THXpm3 の基準値を満足している場合,THXpm3 認証スタジオとして認証.
5. 認証後,1 年毎に確認測定が行われ,必要な場合はモニター特性の再調整が行われる.これにより,常に,レギ
ュレーション通りのモニター環境が維持される.
THXpm3 では,確実なモニター環境の構築のために,スピーカー,アンプを始めとした再生機器に関しても,THX
による厳密なテストをクリアした認証機材の中から選択する必要がある.また,それらの機材の他にベースマネー
ジメント・コントローラー(次項で解説)等,サラウンド・モニタリングに必要とされる機材に関しても認証機材
を使用する必要がある.