User Manual
●スピーカー破損の要因
熱的なものと機械的なものの2つに大別できます。
●パワーアンプのクリップは危険!
パ ワ ーアン プ は 最 大 出 力 を 超 える とクリップし ま す。クリップ に より波 形 の 先 端 部 が 削 ら れ 、正 弦 波 は
矩形波のような波形になります(図2)。矩形波は瞬間的に立ち上がって瞬間的に消える波形なのでド
ライバーを大きく振幅させ、機械的な破損の要因となります。また、矩形波は正弦波に比べて実効値を
高めるので、熱的な破損の要因にもなります。さらに矩形波は高調波(クリップさせた周波数の整数倍
の周波数成分)を発生させ、高域ドライバーを焼損させる恐れがあります。
つまり、スピーカーの許容入力以下のパワーアンプは安全ではなく、むしろ、出力の小さいパワーアン
プ で 大 きな 音 を 出 そ うとすることで クリップ を 発 生 させる 危 険 性 が 高くなりま す。出 力 信 号 を クリップ
させないためにも、十分な出力を持つパワーアンプを選ぶことが重要です。
●パワーアンプ出力を決定する要素
パワーアンプの出力を決める主な要素は、必要な音圧レベル、クレストファクター、ヘッドルームの3つ
で す。
①音圧レベル
実際の楽音は図3のように大きなピークレベルを含みますが、音圧計などで測定される音圧レベルは一
定 時 間 に 渡る エ ネ ルギ ー 的 平 均 な ので 実 効 値 で す。つまり、図 3 に 示 す 実 効 値 で 決まります。
必要パワーアンプ出力の算出方法としては、一般に以下に示す式1がよく知られていますが、必要ゲイ
ンの算出(右ページの式3参照)に用いる受音点での必要音圧レベルとスピーカーの出力音圧レベルは両方とも実効値なので、式1で求められるものは図3に示す実
効値を得るために必要なパワーアンプ出力です。つまり、式1で求めたパワーアンプ出力では楽音のピークでパワーアンプをクリップさせる恐れがあります。
② クレストファクタ ー
楽音 のピーク値は実 効 値に対して6 ~2 5d B 程 度 高くなります。ピーク値と実 効 値の 差をクレストファクターと言います。楽音 の 種 類によりクレストファクターは 異 なり
ます。クレストファクターの参考値を以下に示します。
・スピーチ :10~15dB(話し手の声量変化が大きいが、声質の変化を避けてダイナミクス圧縮しないことが多い)
・フォーク、ジャズ、ポップス:10~20dB(25dB程度のピークがあるが、ダイナミクスプロセッシングで軽めの圧縮が行われる)
・ロック、ヘビーメタル : 6~10dB(実効値は高いが、ダイナミクスプロセッシングで信号はかなり圧縮される)
・クラシック :20~25dB(ダイナミックレンジが非常に広い)
③ ヘッドル ーム
ヘッドル ームとは、楽音のピークとパワーアンプのクリップレ ベ ルの 差を言 います。安 全 にスピーカーを駆 動 するために 、いくらか加 味しておきたいところです。
クレストファクターとヘッドル ームを設 定することで、パワーアンプをクリップさせず に楽 音のピークを再生することがで きます。
電圧
時間
ピーク値
実効値
電圧
時間
ピーク値
実効値
完全な矩形波では実効値
とピーク値は等しい
図1 正弦波
図2 クリップした正弦波(≒矩形波)
パワーアンプ出力=10
・・・式 1
必要ゲイン
10
楽音の波形
ピーク値
ヘッドル ーム
式1で求められるパワーアンプ出力
楽音の実効値
時間
レベル
クレスト
ファクター
パワーアンプのピーク出力
図3 パワーアンプ出力 VS 時間
最 適 な パ ワーアン プ 出 力とは?
スピーカーに組み合わせるパワーアンプ出力を決める際のポイントは、
①スピー カ ーを 破 損させ ないこと、② 楽 音 信号 の ピー ク で もクリップ させ な い ことの 2 点 で す。そ の 考え 方 を 説 明し ま す。
熱的破損
スピーカーに入力された信号の大部分は熱に変換され、ドライバーの温
度を上昇させます。発 生する熱量は実効値に比例するので、実効 値の大
きい信号を長時間入力すると破損する恐れがあります。
機械的破損
極度に低い周波数帯域を持つ信号や瞬時に大きな信号が入力された
場合、ドライバーが過振幅してボビンが変形したりコーン紙に皺が入っ
たりなどの機械 的な破損を引き起こすことがあります。