User Manual

ヤマハパワーアンプ ホワイトペーパー
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3. 低インピーダンス負荷の駆動について
3.1. 安定した低インピーダンス駆動の重要性
パワーアンプにとって低インピーダンス負荷の駆
動は大電力を供給する必要があるため大変過酷な
状況ですが、業務用の音響機器として厳しい環境
でも安定した動作を保証することは重要な条件の
一つです。
一般的にスピーカーをパラレル接続すると、ダン
ピングファクターの低下や万一の場合に被害を受
けるスピーカー数の増加などの影響があるため、
本書でも多数のスピーカーのパラレル接続を推奨
するものではありません。しかし高出力パワーア
ンプが使われる現場では、実際に低インピーダン
ス駆動となる場面が少なくないため、そのような
状況下でも安定して忠実な増幅を得られることは
重要な性能だと考えています。
例えば、ラインアレイでは一般的に複数のスピー
カーがパラレル接続され、インピーダンスが低く
なるとともに大電力の供給が必要とされます。ま
た、デュアルウーファーのサブウーファーでは、
負荷は定格でも 3Ωもしくは 4Ωとなります。さら
に、 13 に見られるようにスピーカーのインピー
ダンス特性は周波数によって大きく変動するため、
アンプにかかっている実際の負荷インピーダンス
は定格インピーダンスから計算されるよりも低く
なる場合があります。
[
13]
典型的なバスレフウーファーのインピーダンス特性。定格
4
Ωの
スピーカーであるが、周波数によっては
4
Ωよりも低くなる。
このような低インピーダンスの駆動時にはパワー
アンプはクリップを起こしやすくなります。パワ
ーアンプがクリップすると出力波形が歪み、波形
の頭がつぶれた信号(矩形波)を出力します。矩
形波には.高周波ノイズが含まれ、このような信号
がスピーカーに入力されるとボイスコイルが発熱
して破損する原因となります。そのため、スピー
カーシステムを保護しヘッドマージンのある音響
システムを構築するためにも、低インピーダンス
負荷の環境下での安定した動作を確保することは
重要といえます。
ヤマハ TXn および Tn シリーズは、安定した 2Ω
駆動をコンセプトの一つとして開発されており、2
Ω駆動の条件で UL*および SEMKO*といったグ
ローバルな安全規格を取得している、業界でも希
少なパワーアンプです。
次項からは、意図的にパワーアンプに重い負荷を
かけた環境での他社との比較実験を記します。こ
れと類似の試験は、パワーアンプの研究開発にお
ける検証試験としてだけでなく、スピーカーメー
カーである NEXO社においてもパワーアンプの性
能限界を評価する手段として実際に行われていま
す。
* UL は米国に拠点を置く製品安全規格の認証機関、
SEMKO はヨーロッパで広く用いられている認定試験機
関です。特に UL では部品や機構のチェック正常試験、
異常試験(内部部品のショート、オープン試験、負荷シ
ョート、1Ω駆動)等の厳しい審査が行なわれました。
本認証は、2Ω駆動条件においても信頼性と安全性を証
明するものといえます。